mission 01: 雪山編
"If there is an impossible thing, it is lying in your spirit."
もし不可能などというものが存在するならば、それは心が 「不可能」 と感じているからだ。
―― 宇宙探検家 ハロルド ・ D ・ ステッフェン
惑星ホワイト ・ エッジ。現在氷河期真っ只中のその星は、名前の示す通り、地表一面を白い雪で覆われていた。
厚い雲の垂れ込めた空。一年中止むことのない吹雪。人を寄せ付けないそこは、まさに秘境と呼ぶに相応しい。
だが、そんな過酷な地を歩む一団が存在した。彼らの名は 「ステッフェン探検隊」 。五人で構成された一隊だ。
『アーアー、こちらジャック。聞こえるか、ハロルド! 吹雪が強くなってきた。休憩場所を探そう』
『アーアー、こちらハロルド。ラジャー、ジャック。この近くに洞窟があるはずだ。そこでやり過ごそう』
トランシーバーで以上のようなやり取りを行った後、隊の先頭に立つ壮年の男 ―― ハロルドは、吹き荒ぶ吹雪と格闘しながら地図を広げた。
『アーアー、こちらハロルド。間違いない、この辺りだ。皆、付いてきてくれ!』
ハロルドの指示に従い、巨大な岩壁に向かう一団。その先には、子供一人がやっと通れる大きさの横穴が開いていた。
穴の近くに立つと、ハロルドは慎重に周囲の雪を調べた後、それらを手で掻き出す。すると、横穴は大人一人が通れる大きさにまで広がった。
『でかしたぞ、ハロルド! 中も安全なようだ』
『ああ。ここで休むとしよう』
そして、彼らは穴の中へ吸い込まれるように消え ――
★★★
「ステッフェン隊、行方不明になったのか」
新聞第一面の見出しをまじまじと眺めながら、白髪 ―― 否 「銀髪」 の青年は呟いた。もっともそれは彼の自称であって、実際は頭のてっぺんだけ黒いという、何ともお粗末な銀髪なのだが。
「あの星じゃ、仕方ないのではないかしら。何でまた、あんな、なーんにもなさそうな所に行ったのでしょうね。物好きもいるものだわ」
そう意見したのは、白いブラウスに赤いタイトスカート、赤いジャケットという派手な出で立ちの女。ちゃぶ台の上に足を組んで座り、口紅を引いている最中だった彼女は、あら、と呟き付け加える。
「なーんにもないのは、この部屋も一緒だったわね」
「悪かったですね、なーんにもない八畳和室で。そう思うなら出てってください」
「悪いだなんて一言も言っていないわよ。私たちだって物好きだもの」
青年は、やれやれといった様子で首を横に振り、そうですか、と小さく溜息を吐いた。
ふと横を見れば、銃の手入れをする緑髪の青年に、工具を磨き上げている金髪ポニーテール少女。更にその横には、リバーシ対決しているドレスの女性と猫耳幼女、そしてレシピ本 「週刊 ・ メシウマ速報」 を真剣に読んでいるタンクトップ姿のバンダナ少年。
これが、アパート 「Forest」 の管理人室における、ここ最近の日常風景である。
管理人である青年は、今度は深く溜息を吐いた。
「あら、何か悩み事かしら? このリリー様が相談に乗るわよ?」
「なら、まずはそのちゃぶ台から降りてください」
「ごめんあそばせ、椅子生活の癖なのよ。まだニッポンの文化には慣れないわ」
そう言って、彼女が立ち上がるのと同時だった。不意に、インターホンが鳴った。同室の七人は一斉に振り向き、部屋の一角へ目をやった。青年がよっこらせ、と立ち上がり、皆の視線の先へ向かう。
「おさわがせ新聞の集金か? はーい、ちょっと待ってくださーい」
玄関のドアに鍵はかかっていなかったが、几帳面な青年は自分でドアを開けた。
「どちらさまで ―― 」
「あの、 『SHINNING-WINGS』 の本部はこちらですか!?」
訊くより早く、急くような声がアパートの管理人室に響く。
それは予想外の、小さな来客だった。
★★★
この部屋を尋ねて来てからもう十分が経つというのに、未だ泣きやまぬ少女。出されたお茶も冷めかけていた。
「まあ、落ち着いて、ね?」
泣いている理由が分からないためにかける言葉も見つからず、苦し紛れにそう言ってなだめる管理人。だが、一応の効果はあったようだ。少女は鼻をすすりながらも、少し顔を上げて話し始めた。
「ごめんなさい。泣いてしまって」
一言目に謝罪が出てくる辺り、十に満たないほどの少女にしてはしっかりしているものだ、と感心しながら、管理人は自分の緑茶を一口すすった。
「大丈夫でしてよ。なぜ私たちを尋ねていらっしゃったのか、ゆっくりでよろしいから話してくださるかしら?」
にっこりと笑って言ったのは、上品なロングドレスを身にまとった、若い女性だった。その言葉に、少女はこくんと頷く。
「わたしの名前は、サリー ・ E ・ ステッフェン。探検家のハロルド ・ D ・ ステッフェンの孫です」
ぶっ、とお茶を吹き出す管理人。その頭に、横のバンダナ少年から鉄拳が飛んだ。
「お気になさらず。続きをお願いいたしますわ」
ドレスの女性は依然にこやかな表情で、目を点にしている少女に話の続きを促した。
「あ、はい。ご存知かもしれませんが、わたしの祖父は探検家で、つい三日ほど前に行方不明になってしまいました。でも、危険だからって、誰も探してくれないんです …… 」
最期のほうは吐き出すように話し、少女はまた目に涙を浮かべる。
「それで、インターネットで調べたら、ここならお金を払えば、なんでもお願いを聞いてくれるって、聞いたので ―― 」
「私たちを尋ねてきたってわけね」
説明の後を継いだ赤いジャケットの女性に、少女は無言で首を縦に振った。しかし、彼女は感情の読めない表情でこう宣う。
「なるほど、事情は分かったわ。でも、厳しい話をするようだけれど、私たちへの依頼費はとても子供のお小遣いで払えるものではないわよ」
少女は目に涙を溜めたまま、静かにうなだれた。
「もし祖父が助かったら、お金は両親や祖父がいくらでもお支払いすると思います。だから ―― 」
「申し訳ないけれど、うちは前金制なの。だから、今ここに現金か小切手がなければ、依頼を受けることはできないわ」
あくまで突っぱねるつもりのようだ。
(子供相手に手厳しいな。私設軍人って、皆こんなもんなのか?)
管理人は張り詰めた空気に耐えかね、肩をすぼめてもう一口お茶をすすった。その後、五分ほど嫌な静寂の時間が流れる。
始めに切り出したのは、先ほどまで拳銃をいじっていた、緑髪の青年だった。
「ただし、私たちの目的が 『依頼を遂行すること』 でなければ、話は別だろうな」
低い声で意味深な発言をし、ちらとロングドレスの女性を見やる。それが何かの合図だったのか、視線を送られた相手は、はっと何かに気付いたようにペン型端末を取りだし、調べ物を始めた。目にも留まらぬ指捌きで。
そして三分後、何に確信を持ったのか、こくんと小さく頷いた。
「確かに、そうですわね。リリー、これを見てくださいな」
彼女は、端末を赤いジャケットの女性に手渡す。リリーと呼ばれた女性が表示内容を読み始めると、その肩越しに、ポニーテール少女、バンダナ少年、猫耳幼女の三人がディスプレイを覗き込んだ。
一通り読み終えた後には、四人ともが 「なるほど、その手があったか」 と口を揃えたのだった。
「わかったわ。その依頼、受けましょう」
「あのっ、代金は必ずお支払いします。だから ―― 」
「いいえ、依頼費はいらないわ」
予想外の答えに、えっ、と目を丸くする少女。
「ただし、次の二つの条件を呑んでもらうわ。一つめ、私たちと関わったことについて他言しないこと。二つめ、もしあなたのお祖父様が発見できない、または生きて帰らなくても、黙って諦めること。できるかしら?」
「はい! できます!」
「なら、契約成立ね」
赤いジャケットの女性は、どこか邪悪めいた笑みを浮かべた。その笑みを目撃してしまった管理人は、まるでおとぎ話に出てくる魔女のようだ、と固唾を呑んだ。
★★★
私設軍隊 「SHINNING-WINGS」 の出動準備は、契約の成立後、およそ一時間で完了した。今、管理人室の八畳間には、管理人、サリー、そして隊服を着た六人が集結している。
ちゃぶ台をどかして部屋の壁に立てかけ、床に散らばっている私物その他を角に追いやると、金髪ポニーテール少女が電気スイッチの一番下を押した。同時に、部屋の中央の二畳が、ウィーン、という機械音を伴って開く。その様子を、サリーは驚いた様子で眺めていた。
「では、行ってくるわ。一日以内に帰ってくる予定だけれど、管理人、ミズ ・ ステッフェンに変なことをしては駄目よ」
「しませんよ!」
管理人は、盛大に否定した。
「では、ミズ ・ ステッフェン。お菓子は台所の左下の戸棚にしまってあるから、自由に食べて構わないわ」
そう言って挙手の敬礼を行い、派手な赤白の隊服を身にまとった女性は、床下へ降りていった。
更にその後を、オレンジの隊服の金髪ポニーテール少女、緑の隊服のバンダナ少年、どう見ても戦闘服ではない薄桃色のドレス ―― 否、隊服の女性、黒の隊服の緑髪の青年、青の隊服の猫耳幼女が、軽い敬礼をして続く。
「あ、あたしのポテチは食べないでネ! 名前、書いてあるから!」
「管理人、オレがいないからって、客にカップラーメンなんか食わすなよ!」
「そうですわね。出前など取ったらよろしいのではないかと」
「領収書を取っておいてくれ。経費で落とす」
「 …… 」
全員が畳の下へ消えると、再び機械音を発しながら畳が閉じた。
二人きりになり、急に静まりかえる室内。
管理人は隣の少女に向かって、苦笑しながら言う。
「大丈夫、ちゃんとお祖父さんを見つけてくれると思うよ。あの人たち、いろいろと凄いから」
それは、本音だった。
★★★
SHINNING-WINGS隊が惑星ホワイト ・ エッジへ到着したのは、地球を経ってからおよそ二時間後だった。航宙写真から人のいた形跡のある箇所を特定し、その付近へ降りるべく、彼らを乗せた宇宙船は大気圏に突入する。
「噂に違わぬ、真っ白な星ね。」
フロント ・ ウィンドウから下界の様子を眺め、隊長席に座った赤い隊服の女性は、感心したように呟いた。
「シャネリー、生体反応を探して頂戴」
「アイ、マム!」
シャネリーと呼ばれた操縦席の金髪ポニーテール少女は、滞空状態の宇宙船を自動操縦モードに切り替え、生体反応を探し始める。ディスプレイに 「探索完了」 の文字が表示されるまでに、そう時間はかからなかった。彼女は手元のパネルを操作し、赤丸付きの地図を隊長席の前に透過表示させる。
「見つけたよっ♪ 洞窟の中みたいだけど、入り口は見あたらないや」
「でかしたわ。なるほど、閉じこめられたってわけね。その付近に降りてみましょう」
「ラジャー!」
指令を受けるが早いか、ポニーテール少女は巧みに操縦桿を操り、着陸を試みる。地表に近付くと周囲の雪が舞い、ウィンドウが真っ白になった。
「すごい吹雪だわ。これはヘルメットを装着していったほうが良さそうね」
隊長席の女性の呟きに、隊員は一斉に自分の座席の下からフルフェイスのヘルメットと重装隊服を取りだした。宇宙空間でも使用できる、空調機能付きのものだ。
「さて、まずは調査よ。総員、船外へ!」
★★★
洞窟の入り口は、堅い岩で塞がれていた。おそらく、雪崩と共に岩壁の上から滑り落ちてきたのだろう。
「これは下手に掘ると、上が崩れるわね。雪崩の心配もあるわ。何か良いアイディアはあるかしら?」
「地層分析データによると、岩壁の上に別の入り口があるらしい。ターゲットの元へ必ず到達できるとは限らないが、そちらから侵入を試みたらどうだろう」
「もひとつあるよ。あたしの銃で出力調節しながら穴空ける方法。ちょっと時間はかかるけど、そんなに衝撃もないよっ♪」
黒服の青年の提案と、ポニーテール少女の提案を聞き、赤い隊服の女性はうんうん、と頷いた。
「良い案ね、両方やりましょ。私、ルイ、カーラの三人は前者を。シャネリー、フレミア、ティナの三人は後者を実行して頂戴」
「「「「「了解!」」」」」
赤い隊服の女性の指示により、六人は二組に分かれた。一方は、赤、黒、緑の隊服の三人。もう一方は、オレンジ、薄桃、青の隊服の三人組だ。
「それじゃ、作戦決行よ。どちらのグループも、可能な限りの早さで小目的の達成に勤しむこと!」
★★★
「別の入り口」は、案外早く見つかった。黒服の青年の予想通りの場所 ―― 洞窟があると思われる地点のすぐ側に空いていたためだ。
「やはり、な。人が通れる程度の幅もありそうだ」
「早速降りてみましょ。カーラ、ペグ打ってくれる?」
「まかしとけ!」
緑の隊服の少年はグーサインを作って見せると、背負っていたナップザックから長めのペグを取りだし、雪の上に突き刺す。そして右足を振り上げ ―― 目視不可の早さで振り下ろした。ガキン、という澄んだ金属音が雪山にこだまする。
「上出来だわ」
ペグは、堅い地面に深々と埋め込まれていた。
「それじゃ、一番丈夫なカーラが偵察に行ってくれるかしら?」
「了解。何かあったら通信する」
そう言うと、ヘルメットと緑色の重装隊服をその場に脱ぎ捨てる。
「やっぱ、こっちのほうが身軽だな。んじゃ、行ってくるぜ!」
ザイルを腰に巻いて堅く縛り、斜めに穿たれた穴の中へひょいひょい降りていった。
「洞窟内に到達したぜ!」
地上の二人にそう通信が入るまで、五分とかからなかった。赤い隊服の女性と黒い隊服の青年は顔を見合わせ、頷く。
「私たちも行きましょうか」
「ああ」
★★★
それは、信じられない光景だった。突然、天井の穴から人間が降りてきたのだ。それも、一切の防寒装備を着けていない少年が。
彼はステッフェン隊の隊員と目が合うと、ヒュウ、と口笛を吹いた。
「やりぃ。全員生きてんじゃん。リリー、洞窟内に到達したぜ!」
外部との通信だろうか。その場の誰にともなくそう言った後、彼は腰で縛っていたザイルを解く。解放されたザイルは、するすると天井の穴へ消えていった。
「君は …… 何者だね? 我々の幻か?」
「私設軍 『SHINNING-WINGS』 の隊員。一応、あんたたちを助けにきたんだよ」
彼の返答に、ステッフェン隊の五人は顔を見合わせた。まだ半信半疑のようだ。
「ハロルド ・ D ・ ステッフェン、あんたの孫の依頼でさ。嬢ちゃん、はるばるニューヨークから依頼に来たんだぜ? 感謝しとけよなっ」
「サリーが …… ? 信じられん …… 」
壮年の男性は、頭を抱えた。
「さて、と。これから仲間が降りて来るから、それまで俺も待たせてもらうぜ」
「仲間 …… ? 仲間がいるのか?」
「ったり前。一人でこんなとこに来るヤツがいるとしたら、無謀もいいところだぜ」
「それもそうだな」
幾分、彼らの雰囲気が和やかになった。 「SHINNING-WINGS」 とは何者なのか、なぜ彼はこんな極寒の地でそれほど薄着でいられるのか、疑問は山ほどあったが、今はそんなことはどうでもよかった。死を待つしかないという絶望的な状況にあった彼らにとって、今目の前に座っている少年は、まさに天使だった。
後続がやってきたのは、それからおよそ十分後。二人とも、ザイルは着けずに降りてきた。
「カーラのおかげで内部の様子が分かったから、面倒が省略できたわ」
「この体はこの体で便利だよな」
そんな会話をした後、三人はステッフェン隊に向き直った。
「ごきげんよう。私たちは私設軍 「SHINNING-WINGS」 隊よ。サリー ・ E ・ ステッフェン嬢の依頼で、ミスター ・ ステッフェン及びステッフェン隊員の救助に来たわ」
赤い隊服の女性がそう宣うと、ステッフェン隊の五人から歓喜のざわめきが起こった。
「さて、いつまでもこんな所に居る理由もないわね。天井の穴から外へ出られるわ。このザイル、全員登れるかしら?」
「ありがとう。問題ないよ」
「では、順に登って頂戴」
ステッフェン隊員は顔を見合わせ、一番若年の者を推した。彼はおずおずと進み出ると、ザイルに手をかけ、体重を乗せる。
その時だった。
ガラガラと音を立て、天井が崩れ落ちてきた。
黒服の青年はとっさに、穴の真下に居たステッフェン隊員を庇いながら安全な場所へ転がる。他の二人のSHINNING-WINGS隊員も難なく避けた。残るステッフェン隊員も素早く後退し、幸い、怪我人は一人も出なかった。
しかし。
「あらあら。登れなくなってしまったわね」
赤い隊服の女性の言う通り、崩落した岩盤が洞窟の半分を塞ぎ、天井の穴を隠してしまっていた。
「カーラなら何とかできるかもしれないけど、まだ崩落の危険もあるし、掘るのは無理ね。ま、潰されなかっただけ運が良かったわ」
「そうだな」
見れば、ステッフェン隊員は魂の抜けたような状態になっていた。無理もない、助かったと思ったらこの状況なのだ。
「もうお終いだ …… 」
彼らは目に涙を浮かべ、頭を抱えた。が、対するSHINNING-WINGS隊員は、おやおや、といった様子でそれを眺めている。
「あなたたちがお終いだと思うのなら、そうなのでしょうね」
ステッフェン氏は顔を上げた。
「なぜ、君たちはそんなに落ち着いていられるのかね? 我々は、ここに閉じこめられてしまったんだぞ。それとも、まだ何か他に手があるのか?」
「私たちの仲間が外にいるわ。そこの岩盤を地道に掘っているはずよ」
「掘るだと? 不可能だ。この岩盤はとても堅いし、仮に貫通したとしても、それはいつのことになるか …… 。食糧は、あと一日分しか残っていないんだ」
「不可能? そうかしら。それは、あなたがそう思っているだけかもしれないわよ」
彼女はそう言って、クスリと笑う。ステッフェン氏は、彼女のネバー ・ ギブアップ精神に、探検家として感服してしまった。
「確かに、それもそうだな。私も長年探検家をやっているが ―― もう年か ―― 諦めが早くなってしまっていたようだ」
★★★
結局、赤い隊服の女性の言葉通り。不可能とは、ステッフェン氏と彼の仲間たちが思っていただけであった。
「わーい、開通開通! みんな元気ー?」
外のまぶしい光と共に、あけっぴろげな声が洞窟の中へ飛び込んできたのは、天井の崩落からおよそ五時間後だった。
洞窟内部から、歓声が上がる。
「全員無事よ。天井が崩落して、上からは脱出できなくなっていたの。助かったわ。さ、それじゃ今度こそ、外へ出ましょ」
疲れた足取りで白銀の世界へ踏み出すステッフェン隊員。吹雪は止み、空は白いながらも、薄い陽の光が地上に届いていた。
ステッフェン隊員の後ろから、赤い隊服の女性、黒い隊服の青年、緑の隊服のバンダナ少年と続く。
「あとは、地球へ帰るだけね」
ステッフェン隊員は笑顔を交わし、肩を組んで生還を喜び合った。しかし。
「―― と、言いたいところだけど」
ニヤ、と邪悪な笑みを浮かべると、赤い隊服の女性は懐から銃を取り出し、彼らに向けた。憐れステッフェン隊、歓喜雀躍が一転、その場に凍り付いた。
★★★
―― それから、三日後。
「あ、ほらほら。ステッフェン隊の件、テレビに出てますよ」
皿洗いをしながら横目でニュース番組を見ていた管理人がそう言うと、バンダナ少年、金髪ポニーテール少女、猫耳幼女の三人が安っぽい32V型テレビに張り付いた。
「おー、ほんとだ。どれどれ」
画面上部に表示されているのは、「ステッフェン隊員、無事生還」 のテロップ。ステッフェン氏が満面の笑みを浮かべ、孫娘を抱いてインタヴューに答えている。
『岩盤が崩落し、出口が塞がれてしまったときは、もう駄目かと思いました』
『どうやって脱出されたのですか?』
『突然空から一匹の大鷲が現れ、出口を塞いでいた岩を鷲掴みにすると、大空へ飛び立っていったのです! それは、まさに奇跡の光景でした。ワシは感激じゃ〜』
「やっぱこのコメント、おかしくねえか?」
「え、そう? バッチリ誤魔化せてると思うよ♪」
「 …… 」
『な、なるほど。プッ、クク、それは本当に良かったですね! で、では、最後に何か一言お願いします』
『今回の探検で、もし不可能などというものが存在するならば、それは心が「不可能」と感じているからだ、ということを痛感しました。未来のことは誰にも分からない。だからこそ、最後まで諦めてはいけないのです』
「あ〜ら、偉そうに言っちゃって。 『そんなのは不可能だー』 なんて言っていたのは、どこの叔父様かしらね」
いつの間に現れたのか、三人組の背後から赤いタートルネックを着た女性が覗き込んでいた。
「ま、こっちも稼がせてもらったし、その名言はおまけとして付けさせていただきましょうか」
「その 『稼いできた』 物ですけどね、早く売り払ってきてくれませんか? 邪魔なんですけど」
管理人が、口を尖らせて言った。彼の視線の先には、古い陶器や薄汚れた金銀宝石細工が山と積まれている。
「あと三日もすれば、フレミアが処理してくれるわよ。管理人は、文句を言わずに皿洗いを続けなさい」
青年は、はあ、と溜息を吐いた。
「代金はタダでいい、なんて言っておいて探検の成果物を強奪なんて、善人なんだか極悪人なんだか ―― 」
「な に か 言ったかしら?」
「イイエ、ナニモイッテマセンヨ、ゴメンナサイ」
mission 01: Complete.